日本道徳教育学会 神奈川支部 研究

2020年度研究テーマ 道徳科の指導と評価の一体化を目指して
                〜生き方を励まし、勇気づける授業づくり〜 」
 


研究テーマ設定趣旨

新学習指導要領が小学校では今年度より全面実施となった。また、中学校においては次年度より実施となる。今回の改訂の趣旨は、情報化、グローバル化が加速度的に進展し、AIの飛躍的な発達やIoTの普及により社会構造や雇用環境などが大きく変化していく予測困難な時代にあっても、社会の変化に対応し、生き抜くために必要な資質・能力を子供たちに育んでいくことにある。そして、このような資質・能力を育んでいくために各教科等の目標と内容が、「何を理解しているか、何ができるか(知識・技能)」「理解していること・できることをどう使うか(思考力・表現力・判断力等)」「どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか(学びに向かう力・人間性等)」の3観点で整理された。この中で3つ目の観点である「学びに向かう力・人間性等」は学びを人生や社会に生かそうとすることであり、このように学びの意味が明記されたことは意義深い。これからの学校教育は、以上のような資質・能力の育成を目指して行われることを改めて共有していきたい。

また、小中学校学習指導要領解説「総則編」では次のように述べられている。「今回の改訂は,(中略)、社会の変化に受け身で対応するのではなく,主体的に向き合って関わり合い,自らの可能性を発揮し多様な他者と協働しながら,よりよい社会と幸福な人生を切り拓ひらき,未来の創り手となるために必要な力を育むこと」とある。そして、「どのような未来を創っていくのか,どのように社会や人生をよりよいものにしていくのかという目的を自ら考え,自らの可能性を発揮し,よりよい社会と幸福な人生の創り手となる力を身に付けられるようにすることが重要である」とも述べられている。これらのことから、変化の激しい時代に対応できる資質・能力を育むと同時に幸福な人生を創っていく力を身に付けていくことが希求されていることが理解されよう。

以上のように、これからの教育の方向性は変化に対応し生き抜くことのできる資質・能力、幸福な人生を創っていく力を身に付けていくことを目指していると考える。この考え方は、当然、道徳科の学習においてもあてはまることである。道徳科はあくまでもよりよく生きるための人格的特性である道徳性を養うことを目標としているが、同時に、道徳科の学習には明るい希望をもって未来を力強く切り拓く力や幸福を創っていく力の育成が求められていることでもある。

道徳科においては、すでに全面実施されて1年ないし2年が経過し、教科書を使用しての授業にも慣れ、評価活動の実績も積み上げてきた。評価については、各時間での見取やポートフォリオ評価などを通じてある程度の経験知が得られた。だが、得られた評価は通知表や指導要録の記述文としての評価にとどまっており、評価を指導に生かしていく、いわゆる指導と評価の一体化に関しては不十分な点が散見される。そこで、今年度も昨年度のテーマ「道徳科の指導と評価の一体化を目指して」の研究実績をもとに指導と評価の一体化の研究を深めていきたい。さらに、新学習指導要領の趣旨を踏まえ、指導と評価の一体化を図っていく中で、道徳科の観点から子供たち自ら明るい希望をもって未来を力強く切り拓く力や幸福な人生を創っていく力を培っていきたい。

そもそも道徳科は単なる価値観の押しつけをしたり、人間の言動を規制ないし拘束する意識を醸成したりするものではないはずである。道徳科は、明るい未来に向かっての生き方が励まされ、勇気づけられ、これから歩んでいく人生の背中を押してくれるものとなるような学習であることが期待されるのである。このことは、まさに、道徳科における未来を力強く切り拓く力や幸福な人生を創っていく力と捉えることができよう。このような道徳科の学習のあり方を指導と評価の一体化を図っていく中で実現していきたいと考え、本年度のテーマを「道徳科の指導と評価の一体化を目指して〜生き方を励まし、勇気づける授業づくり〜」と設定した。