日本道徳教育学会 神奈川支部 研究

研究テーマ問題解決的な学習で創る道徳授業」 

研究テーマ設定の理由

 平成273月に道徳教育に係る学習指導要領が一部改正され、従前の「道徳の時間」が「特別の教科 道徳」(以下道徳科)として位置付けられた。このことは、昭和33年に道徳の時間が特設されて以来の道徳教育の中での大きな転換点である。

今次の学習指導要領の改正は、これまでの道徳教育が抱えていた課題点と次代を担う児童・生徒に求められる資質・能力の育成との関連性の中に道徳科として位置付けられた背景を見て取ることができる。

次代を担う児童・生徒にとっては、グローバル化が進む中で、異なる言語や文化、様々な価値観を有する人々と尊重しあいながら生きていくことや、発展する科学技術や予想のつきにくい社会の中で、人間の幸福や社会の発展を図っていくことが課題である。これらの課題に対応していくためには、一人一人が高い倫理観を持ち、多様な価値観の存在を認識しつつ、自ら感じ、考え、他者と対話し協働しながら、よりよい方向を目指す資質・能力が必要である。こうした資質・能力の育成には、道徳教育の果たす役割が大きい。

このように、これからの道徳教育は、次代を担う児童・生徒の未来志向型の資質・能力を育成すべきである。しかし、これまでの道徳教育は、道徳の時間が特設されて60年の経過の中で、充実した指導を重ね、確固たる成果が見られる一方で、例えば、歴史的経緯に影響され、道徳教育そのものを忌避しがちな風潮があること、他教科と比べ軽んじられていること、読み物資料の登場実物の心情理解のみに偏った形式的な指導が行われていることなどの多くの課題が指摘されてきた。今次の改正は、これらの課題を抜本的に改善・充実し、次代を担う児童・生徒に未来志向型の資質・能力の育成を期しての改正と捉えることができる。

学習指導要領の改正で、道徳科の目標は「よりよく生きるための基盤となる道徳性を養うため、道徳的諸価値についての理解を基に、自己を見つめ、物事を(広い視野から)多面的・多角的に考え、自己(人間として)の生き方についての考えを深める学習を通して、道徳的な判断力、心情、実践意欲と態度を育てる」(カッコ内は中学校)と示された。このことは、道徳科が、よりよく生きるための道徳性を養うことを目指していることを明示したものである。そして、このよりよく生きるための道徳性育成のための学習方法として「児童の発達の段階や特性等を考慮し、指導のねらいに即して、問題解決的な学習、道徳的行為に関する体験的な学習等を適切に取り入れるなど、指導方法を工夫すること。」と例示されている。この例示での「体験的な学習」に関しては、これまでの学習指導要領でも「体験活動を生かす」と示されており、道徳の時間の指導においても体験活動を取り入れた授業を展開してきた経緯もあることから、今後の道徳科でも一定の指導の方向性を見出すことがでる。しかしながら、「問題解決的な学習」は、各教科においては活用する学習方法であるが、道徳科における指導事例については皆無に等しいと思われる。また、道徳科に取り入れた時のコンセンサスも得られないと思われる。では、道徳科において、この「問題解決的な学習」をどのように展開していけばよいのだろうか。このことが大きな課題である。そこで、本支部研究会では、この「問題解決的な学習」をどのように捉え、そして、道徳科でどのように展開していくのかを授業実践を通す中で究明したいと考え、本テーマを設定した。