第1回神奈川支部研究大会が、12月23日(月)に、横浜港にほど近い横浜市健康福祉会館を会場に開催されました。師走の慌ただしい時期にもかかわらず、41名の会員が参加し、その場だけは年末の寒さを吹き飛ばすような熱気に包まれました。

 当日は、研究大会に先立って臨時総会が開かれ、事務局員の追加、会則の改正、平成25年度の修正事業計画案・予算案が承認されました。
 研究大会では、研究推進委員長より研究テーマ設定についての提案がありました。
①道徳の教科化について ②魅力ある道徳授業について ③道徳教育推進教師の役割について
という3つの視点からの提案説明でした。

 このテーマを受け、川崎市と横浜市の小学校現場で活躍している先生から実践提案がありました。

提案①「他教科との関連を意識した道徳教育」小川朋子(川崎市立西梶ヶ谷小学校教諭)
提案②「自己を主体的に見つめ、より良き生き方を求めようとする心を育てる道徳教育の在り方とその指導~確かな価値把握と深いふりかえりをするための支援のあり方~」細貝理恵(横浜市立つづきの丘小学校教諭)

 提案をもとにした全体討議では、道徳資料をどのように教材化していけばよいのか、「心に響く道徳授業」とはどのようなものなのか等々、道徳授業の指導方法論を巡って熱く議論が展開されました。

 その後、本支部顧問の押谷由夫先生(昭和女子大学教授・日本道徳教育学会会長)による「これからの道徳教育充実に向けての課題」と題した記念講演が行われました。講演に先立って行われた研究発表・全体協議を受けて「心に響く道徳」についての見解、現在取り組まれている道徳教育が、これから、
教科化に向けてどのように推移していくのか等々、今日的な話題に即して具体的かつ先進的課題を語っていただきました。難しい内容も、穏やかで丁寧な語り方から参会者にその意図が明確に伝わる講演でした。この場をお借りし、改めてご指導をいただいた押谷先生に感謝申し上げたいと思います。

画像の様子からも覗えると思いますが、現在進行しつつある道徳教育改革が及ぼす影響力の大きさを改めて感じています。
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平成25年度 日本道徳教育学会 神奈川支部
神奈川支部 第1回研究大会
「道徳教育充実のための具体的な方策について~現場からの発信~

2013.12.23
於 横浜健康福祉会館

    第1回 神奈川支部研究大会 報告

第Ⅰ部 臨時総会


○田沼支部長挨拶
   神奈川支部を立ち上げたばかりでまだ組織が固まっていないため、ご理解いただくためにも臨時総会
   を開いた。この1年間の道徳の環境についてどうお考えでしょうか。2月末に道徳の教科化が発表され
   た。何らかの形で変わっていくのだろう。教科化は、いじめ、不登校、校内暴力がきっかけになったので
   は、と思う。
      人の世の三智  ①学んで得る智  ②人と交わって得る智  ③自ら体験して得る智
   これが生きてはたらく道徳力だと思う。


○議題は全て承認


第Ⅱ部 研究大会

○根岸副支部長挨拶
 みなさまと一緒に道徳教育について考えたい。
  ①道徳の教科化  ②魅力ある道徳の授業について  ③道徳教育推進教師の役割について
 今回は、支部の研究テーマにそって、現場の実践を発信する。

研究テーマ「道徳教育充実のための具体的な方策について」~現場からの発信~

 研究発表Ⅰ:支部研究テーマの提案
   藤原 政行(研究推進委員長・日本大学准教授)
 「道徳教育充実のための具体的な方策について」~心に響く道徳教育の指導の在り方~


 
テーマの提案…”道徳“という言葉自体に、硬いイメージがあるタイトルを言うことを考えた。柔らかいイメー
           ジがある心に響くという言葉で表現。若い先生に実践の中で役立ててもらいという思いを
           持った。そこで、研究活動の中心を道徳教育の中でも特に道徳の時間の指導の在り方に
           絞って考えた。
           本日は、1.道徳の教科化について・2.魅力ある道徳授業について・3.道徳推進教師の
           役割についてという3つの視点から道徳教育について提案。

1.道徳の教科化について
   知・徳・体のバランスの取れた教育環境を整備されてきた。徳育を新たな枠組みにする。特別の教科と
   いうことの位置づけ。道徳の教科化されることの背景にいじめ問題への対応について・共通指導が不
   十分であることがあげられている。道徳教育が直接いじめ問題解決の対策になるとは、考えなければ
   ならない。道徳の時間を教科化して、指導をすれば、子ども達の規範意識が高まるが、その結果いじめ
   問題が解決する根拠は、何かということ考えたい。子どもの心が成績の対象になってしまうことが、心配
   される。
    文科省からの提言として、教科としての原則論①数値②教科書③免許を設けることがあげられた。①
   の数値は、数値化せず、言語表記のみとする。②の教科書は、検定教科書を使うことになる。③基本
   的に学級担任が行う。特に道徳教諭の免許の取得を必要としない。④中学校においては、人間科とす
   る教員一人ひとりが腕を上げる必要がある。

2.魅力ある道徳教育について
 子どもからみて→  *ワンパターン
              *おせっきょうみたい
 先生からみて→   *つい、どうしたらよいか、と悩んでいる。
              *活用方がわからなくて、不安になる。
              *価値を押し付けてしまう。
                    以上のことに陥ってしまいがちである。
 充実した魅力のある授業とは…
  〇自ら価値判断を行う
  〇子どもが価値を実感する
  〇子どもへ価値観への疑問を投げかける
  〇心に響く
  〇今、悩んでいることと合致している
  〇自分の良さ、友達の良さを実感する
  〇一つのことをじっくり考える
  〇教師がやりがいや手ごたえを感じることが重要。

3.道徳教育推進教師の役割について
   2008年3月から各学校に道徳推進教師がおかれた。道徳推進教師が中心に各学校道徳教育が一
 層の充実が求められている。全教師が協力し合って、展開する。学級担任が行うことが原則。道徳の方針
 を決めるのは、校長。それを動かすのが道徳推進教師の役割。
 ①指導計画を立てる
 ②全教育活動と道徳教育は関わっていく
 ③道徳の時間の充実を図る
 ④道徳教材の整備や活用
 ⑤情報を提供する
 ⑥授業公開を行う(保護者・地域)
 ⑦道徳教育の研修を行う
 ⑧評価を行う
    道徳推進教師が役割をすべて行うのではない。
    心に響く 魅力ある教材を求める。

 研究発表Ⅱ:実践提案①

  「他教科との関連を意識した道徳教育」 小川朋子(川崎市立西梶ヶ谷小学校教諭)

1.理科との関連
5月…メダカの学習を通して、生命の連続性について、学習をする。外部講師を読んで、実際に産卵の場     面を体感した。メダカを飼育していくことで、生命の大切さを実感する。また、インゲンマエの発が実     験を通して、強い生命力を感じる。
    その時期に合わせて、
    3-(2)自然愛・動植物愛護 「自然の偉大さを知り、自然環境を守ろうとする心情を育てる」
    主題名:自然環境を大切に ~一ふみ十年~(東京書籍)
    の授業を行い、心情を育て、活動を通して、実感させることを行った。
    理科のノートより…児童から「小さくてもがんばって生きるメダカを最後までしっかりと育てあげたい。」
              「メダカが一生懸命、子孫を残そうとする姿を見て、生命の大切さを改めて知ること
              ができた。」などのコメントが記入され、道徳との関連がいかされていると感じた。

6月…この時期に道徳の時間に
    3-(1)生命の尊重(東京書籍)「命がないと始まらん」
    「生きていることの喜びを感じながら、かけがえなのない命を大切に自分自身で守っていこうとする心
    情を育てる。」の授業を行った。
    メダカの産卵を体験したのちの授業のため、児童は、より深く命のことを考えることができた。
    道徳のワークシートの中で、「どんな小さな生き物にもちゃんと命がある。」「病気になってもあきらめな
    い」「親への感謝」などの記述がみられた。このことから、自分自身を深く見つめることができたという
    ことがわかった。

2.総合的な学習との関連

  ・稲作プロジェクト…社会科の食料を支える人々との関連カリキュラムとして、稲作活動を行っている。
              地域の農家の人と関わっている。食料を大切にする思いや農家の方々に感謝する
              気持ちや農家の方の努力や苦労に気づくことができた。
  ・レッツ・エンジョイ八ヶ岳…八ヶ岳自然教室では、道徳的価値を自覚させ、実践する意欲へつなげること
              ができる。1-(3)生活の決まりにおける自由・責任や2-(3)協力して行う作業にお
              ける信頼・友情などから、道徳的価値に気づかせたり、実践する意欲を高めたりする
              ことができる。

3.おわりに
   他教科との関連について、意図的・計画的に行うことによって、道徳の時間の充実を図ることができる。
  道徳教育は、学校全体を通して行うものだという認識が深まった。また、これからは、3月に向けて、最高
  学年を送り出し、自分たちが次に学校の最高学年となることへの自覚を意識させ、愛校心の気持ちを高
  めていきたい。

 研究発表Ⅱ:実践提案②
 「自己を主体的に見つめ、より良き生き方を求めようとする心を育てる道徳教育の在り方と
  その指導」
~確かな価値把握と深い振り返りをするための支援のあり方~
   細貝理恵(横浜市立つづきの丘小学校教諭)

1.児童の実態
 
 ・指示待ちの子どもが多い。
  ・大人から言われたことは、きちんとしっかり行う。
  ・自分から積極的に考えない。
  ・トラブルを友達同士で解決する姿が乏しい

2.横浜版学習指導要領の活用
  ・発達段階における、指導の着眼点や実践に生かす指導内容を把握し、基本的指導内容に沿って、学
   年別視点を持った。
   (横浜市では、学年ごとにどんな姿を目指していったらよいかということを細かく具体的な姿がイメージ
   できるように分析されている独自の”横浜版学習指導要領”がある。)
  ・横浜学習指導要領を基に日常生活を絡めて、問題意識を高めていった。
  ・問題意識➡すぐあきらめてしまう心の弱さがあることに気づかせる。
  ・学習の総合化を組む。
   (㊟学習の総合化とは…横浜市では、道徳の時間だけで、問題意識をさせても深く自己をみつめること
    が難しいので、問題意識を高めるために横浜市では、他教科や行事や日常生活や学級活動などとか
    らめて、どんな意識で道徳の時間(本時)を迎えていくのかということを分析し、意図的計画的に行って
    いる。)
  ・先生の意識➡意図的・計画的に行う。
  ・子どもの意識➡ごく自然

3.より高い価値を子ども達に把握させるための工夫
  ・発問の順番を考えた。➡ただ、内容の時系列を追うのではなく、価値の実現から発問をして、どうして、
   このような考えが持てたのかということを考えさせることにより、より高い価値把握につながると考えた。
  ・発問の工夫を行った。➡主人公の女の子がどんなに努力をしたのかということを子ども達につかませる
   ために”二か月””三か月”と、キーワードを板書に示すことによって、子ども達により深く考えさせること
   ができ、女の子が長い時間努力を続けたことを実感させることができた。

4.魅力ある授業にするために
  ・問題意識を子どもに沿ったものにするために➡問題意識を高めていくことによって、明確になっていく。
    ➡学習課題が子ども自身のものとなる。
  ・発問の切り返し➡子ども達に浅い発言が教師の切り返しの発問によって、価値を実現するより高い価
   値に気づいていくことができた。
  ・深いふりかえりをするために➡ふりかえりカードに記入する。その日だけなく、継続的に行う。➡自分を
   見つめる機会を作る。
  ・見やすい板書を手掛かりに➡道徳の時間に得た価値を基に自分自身の見方考え方を話す。見やすい
   板書を手掛かりに登場人物の気持ちと今の自分の気持ちを重ねて話すことができる。
  ・場面絵の工夫➡副読本ではなく、主人公の女の子が何が何でもがんばるという表情の絵を作成。
  ・板書にて心情の変化を表現➡心情を貼る高さを変えることにより一目で女の子の心の動きがわかる。
  ・振り返りカードの活用➡振り返りカードにつける教師のコメントにより、意識を深めていくことができる。

全体討論

○山田会員
 「二重とびチャンピオン」は、自分が作った作品。実際に合った話。
 二年生の時…自信満々だった。自分は、優勝できると思った。しかし、ひょんなことで、失敗してしまった。
 三年生の時…くやしくて、何が何でも優勝したい。くやしさが原動力になった。疑問
  ➡一文の削除。なぜ、削除したのか。作者の意図として、本当の悔しさを表現したい。その一文が作者
   としては、ポイントだった。
 授業者➡気持ちは、子ども達から”くやしい”というその言葉を考えさせたかった。
 改作…教師が改作に頼ってしまうと、踏ん張れなくなってしまう。あるもので、八方に手を尽くすことが大
 切。自分の都合でいいように変えてしまうのは、考えた方がよい。

○田沼支部長
 道徳資料と道徳教材は、違う。資料作家=永井さん、今枝さん、星野さん、加藤さん。授業をよりよくする
 ために資料を教材にしていくことも大切。

○加藤会員
 資料=素材・食材➡味付け=料理人=教師➡資料を教材化。おすすめの本「はじめての道徳の教科書」
  (育朋社)(*加藤さん作の”新ちゃんのながしびな”も入っています。)資料を教材化すれば、どんな年齢
  にも合わせることができる。=料理人の腕前。授業がうまくいくいかないは、資料ではない。やなせたかし
  があんなに人気なのは?飢えの苦しみからアンパンマンが生まれた=無償の愛

○高松理事
 大阪読売新聞のコラムより…
 「小さな車どけてちょうだい」を読み、一緒に子ども達と考えてみたいと思った。実際にコラムの筆者に連絡
 を取ったところ、「指導案をみせて欲しい」と、言われた。指導案をみせたところ、トラックの運転手が「ダン
 ボールをひいたと思った」という言葉を考えさせたかった。コラムの筆者の母は、「まちがいない。物のよう
 にひいたことが(哀しい)・・・」その母親の気持ちをきちんと理解することができたので、採用することができ
 た。実際にあったことを大切に。命ってそういうものじゃないということを伝えたかった。

○今枝会員・・・同じことを25年前もやっている。
 「この教材には、こういうことが心に響くよ。」ということを伝えていくことが大事。なぜ、つみあがってこない
 のか。もう、一歩先をさらにパワーアップを。学問として道徳教育学を設置する必要性がある。

○海野会員(高校教諭・倫理社会専攻)
 心に響くとは、いいのか、悪いのか?道徳性を育てる。盛り上げる。感激するだけで、本当にいいのか?
 道徳の法則を言わないでそれでいいのか?

○山田会員
  心に響く(サブテーマ)…もっと具体的に。中身に踏み込むべき。

○加藤会員
  心に響くとは感動すること。それは大切。10の教え。「ならぬものは、ならぬ。」してはいけない。黄金律
  =①殺す②ぬすむ③うそつくな。発達段階において、しっかり教える。丹誠・理解・判断力

○岩間理事
  永遠のテーマ=心に響く=心が動く。この時間に実感をもったのかということ切。話し合いでなく、語り合
  いができるといい。これをふかめていくこと。

○田沼支部長
 学校の現場で。発問や教材で本当に子ども達の心が本当に動くのか?仕掛けづくりをしないと、1時間の
 授業では難しい。教育活動としての面でぶつけていくことが大事。


記念講演 「これからの道徳教育充実に向けての課題」
 講師 押谷 由夫 先生 <昭和女子大学教授・元文部科学省教科調査官>

  「心に響く」とよく言われる。
  平成元年の改訂では、道徳的判断力、道徳的心情、道徳的実践意欲・態度の順で書かれていたが、平
 成20年の改訂では、道徳的心情、道徳的判断力、道徳的実践意欲・態度の順になった。道徳教育という
 のは、冷静に判断することが大切。しっかり判断して心が動いて行動へと移していく原動力は、道徳的心情
 共感的な部分が必要。

 「道」という字は、自分の頭で考えて歩く。そこにできるのが道。
 共感することができなければ、判断して歩くことはできない。
 科学的思考と道徳的思考で考えてみる。
 科学的思考とは、客観性、批判性、厳密性
 道徳的思考とは、主観性、共感性、寛容性
 科学的精神と道徳的精神をうまく混じあわせる。人間社会においては、道徳的思考を大切に人間生活が 
 行われればよいと思う。道徳の時間は、人間の価値意識を大切にすること、価値意識をしっかり育むこと
 からもっと深まっていく視点から問題解決ができる。道徳の時間で、問題解決も問題追求の2つを求めるこ
 とはできない。どうしてこうなるんだろうか・・・課題追求することが自分の課題
 今、取り組んでいることは教科化になるとどうなるのか。

 <賛成意見>
  ・今の道徳ではよくないから教科化
  ・今の道徳でよいがもっと進められる
 <反対意見>
  ・今でよい。何も教科にしなくてよい。(消極的)
  ・価値の押し付けになる。学校教育でやることがおかしい。
 この4つが混在している。消極的反対論が多い。みんなが取り組めるように。効果的になるように
  →そのための教科化。

  教科になったからではなく、子どもたちからいい反応が出てきたからさらにのめり込んでいく。
 道徳教育をもっとしっかりと受け継がれていくように。
 道徳とは、未来に希望を託すもの。未来を不確かなもの、希望がもてないものにしていくものではなくない。
 希望があるものにするのは教師の役目。
 道徳教育から考える→人間の本質を考える。それを学校教育から。
 本来人間は、よりよく生きようとすることを引き出すのは、教育の本質。教えることではなく、引き出すこと。
 それが道徳教育である。教えることではなく、寄り添いながら引き出していく。
 教育の目的は人格の完成を目指す。人格は、幼児期に基礎固めをして一生追い求めていく、磨いていく。
 そのことを通して豊かな人生、幸せな人生を送っていく。そういう教育ができるようにこれから教育改革をし
 ていこうと提案している。
 知・徳・体が大切。それは並列ではない。よりよく生きるために徳がベースになる。価値意識をしっかり育て
 ないといけない。



★神奈川支部懇親会
 (会場:横浜ブリーズベイホテルにて)


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