平成29422日(土)國學院大學たまプラーザキャンパスにおいて、5回目になる「日本道徳教育学会神奈川支部」道徳フォーラムが開催されました。

第Ⅰ部 平成
29年度神奈川支部総会

開会挨拶では、田沼支部長から道徳の状況として、“道徳科”
になることで、“主体的・対話的な深い学び”が全面に出さ
れてくること、各教科同様に「どのような力をつけていくのか」が道徳科でも大切であろう、との話がありました。


第Ⅱ部 実践研究発表

「支部研究テーマ設定趣旨(富岡栄理事)」
道徳科における改善の視点は、
①主体的な学びの視点
(社会的課題を取り上げる、一人一人が考え、
 感じたことを振り返る活動を入れる)
②対話的な学びの視点
(自分と異なる意見と向き合い議論する。葛藤や
 衝突が生じる場面を多面的・多角的に議論する)
③深い学びの視点
(道徳的な問題を自分事としてとらえ、議論し、
 探求する課題を重視する)
が挙げられる。授業実践の中で、この3点を究明
していきたいという趣旨が説明されました。

 教育実践報告
「川崎市立浅田小学校 内島史章先生」

 「2年間の研究結果と平成29年度の研究の方向性」と題して、教職員が一丸となって校内改革を進めていったことが報告されました。研究の1年目では、道徳の全体計画や年間指導計画の見直し、別葉の作成、授業グッズなどを全職員で取り組むことで道徳の授業を身近にしたこと、研究2年目には、話合い活動の指標やハンドサインを取り入れ、低学年でペア活動、中・高学年でホワイトボードやグループ活動など、研究テーマと関連した活動を行ったことなどが報告されました。成果として、テーマを絞ったことでねらいが明確化されたこと、部会により仕事が細分化されたこと、子どもたちの話合い活動が充実したこと、お互いの良さを褒め合う姿勢が生まれたこと、の4点、課題としては、話合い活動グループのみに留まり広がりがなかったこと、「互いに認め合う姿」には、時間が必要であること、ねらいに沿った発問の構成、問い返しの難しさがあること、の3点が挙げられました。このような成果と課題から、平成29年度は、道徳的行為に関する体験的な学習や、問題場面の役割演技や体験的な活動を取り入れた、質の高い多様な指導方法を学んでいく研究としていきたいとの報告がありました。


「埼玉県川口市立榛松中学校 若林尚子先生」


 『「考え、議論する道徳」を実現する工夫』と題して、これまでの問題解決的な取り組みの実践報告がありました。道徳科におけるアクティブ・ラーニングとは、「目に見える活動性だけではなく、頭が働き、心が動く授業」であり、それが質の高い深い学びの実現につながるとの考えが出されました。実現するための工夫としては、ベン図や相関図、マインドマップなどによる思考ツールの活用、板書の工夫、トゥールミンモデルを使用し論理的に話し合う、めあてを具体的な言葉で示す、などの具体的な実践の報告がされました。また、問題解決的な授業の基本として、葛藤の状況を整理し、生徒から解決する問題の設定があり、多面的・多角的に考え、社会的な視点で考え、クラスの合意につながるという生徒主体の授業展開も提案されました。そのような対話や議論を通じて、自分の考えを根拠とともに伝え、他者の考えを理解し、多様な人々と協働したり、考えを深めたりできるような生徒に育てたい、問題を発見・解決し、新たな問題の発見・解決につなげていくことができる生徒に育てたい、と学校教育を通じて育てたい生徒の姿が見えました。


「研究総括(杉戸美和先生)」

内島先生:子どもたちが互いの良さを発見し、認め合うことができるというのは、全職員がまとまっていた。取り組むたびに研究を重ねていった

若林先生:生徒たちがトゥールミンモデルを通して、深くよく考えることを楽しんでいたことが伝わった、異なる意見をもつ他者と議論することで向上的変容が見られる



 記念講演「『特別の教科 道徳』で進める 主体的・対話的で、深い学び」
 永田 繁雄先生(東京学芸大学教授、前文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官) 

来年度で、道徳教育、道徳授業が60年目を迎えるに当たり、学習指導要領が求める道徳科の姿を理解するべく、「特別の教科」として位置づけされた理由、指導要領で大きく変わった点、「主体的・対話的で深い学び」への質的改善、柔軟な道徳授業とは、多面的・多角的思考、の5点について講演頂きました。

①「特別の教科」として位置づけされた理由
道徳教育の忌避傾向と軽視化の傾向にあったことや道徳授業の硬直化傾向による大きな問題があったため、「柔軟さ」を期待するようになった

②指導要領で大きく変わった点
・全体で道徳性を育成し、指導で道徳性を育成すること
・道徳性を養うとは、資質・能力であり、道徳的価値については教え、自己を見つめ、物事を広い視野から多面的・多角的に考え、自己の生き方についての考えを深めることで育み、道徳的な判断力により資質・能力の様相であると考えられる
・内容項目の視点の順を見直した、発達段階の一貫性、いじめなどの子どもの心の問題への対応を目に見えるようにした
・道徳科の指導の在り方として、アクティブ・ラーニング(能動的な授業)への一層の質的改善を求めた「質の高い多様な指導方法」として挙げられた3つの授業イメージをさらに重ねることが求められる
・道徳科に求められる教材として、教科書、地域教材・放送教材・個人開発資料、私たちの道徳がある。授業の全ての時間を教科書使用するのではなく、4分の3は教科書以外のものを使い、教材を広げて行くことも必要である
・道徳科における評価は、質的に評価すること
③主体的・対話的で深い学び」への質的改善
 
教師主導の「各駅停車型」授業・発問構成だけではなく、子どもたちが主体的に課題を見つけ
 追求していけるような授業展開も増やしていって欲しい。

④柔軟な道徳授業
 明確な方向性として
  ・主体的な取組→問題意識(自己投影の導入)
  ・協働的・対話的な追求→問題の追求(グループでアクティブに)
  ・能動的な学び→磨き合い

⑤多面的・多角的思考
 多面的思考→認め合い、価値認識「あなたならどうする」
 多角的思考→みがきあい 生き方を広げていくこと
「場面発問」では、教材を一体的に考えられない
 発問の大きさを意識して、大きな発問(「テーマ発問))も授業に織り込んでいくこと

 以上の他、永田先生からは、学習テーマと中心発問をつなげて一体的な授業をつくるための例として、「雨のバス停留所で」での授業展開が4つ上げられました。例①主人公になって考えよう(幅広いめあて型テーマで進める場合)例②-きまりは、なんのためにあるのだろう(共通の題材から生みだすテーマで進める場合)例③主人公が先頭に立つのはいけないことなのか(教材での気がかりを中心にする場合)例④主人公とお母さんの考えはどう違うのだろう(教材での考えたいテーマを置く場合)が問題追求となるのではないかということでした。発問を柔軟に発想するために、「共感的」な発問、「分析的」な発問、「投影的」な発問、「批判的」な発問の4区分と、多面的な思考・物語的な思考・科学的な思考・多角的な思考の4つの思考例についてもご説明頂きました。 

 開発的発想で道徳授業・道徳教育の開拓を目指し、今後の新しい道徳の時代をつくっていってほしいとのお言葉も頂きました。

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 年々参加人数も増え、5年目を迎える
神奈川支部の今年の活動も期待されている
ことが感じられる道徳フォーラムでした。



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平成29年度 日本道徳教育学会 神奈川支部総会
道徳フォーラム
2017.4.22
於 國學院大學 たまプラーザキャンパス 1号館AVI教室