令和元年12月21日(土)、横浜市立みなとみらい本町小学校を会場にお借りして「第7回 日本道徳教育学会神奈川支部研究大会」を開催しました。
実践提案あり、シンポジウムあり、実践講座あり、という内容盛りだくさんで充実した時間を過ごすことができました。
今回も全国から集まっていただいた参加者の方々の熱意で大盛り上がりの会になりました。
日本道徳教育学会 神奈川支部
研究大会2019
2019.12.21
於 横浜市立 本町小学校
1 開会挨拶
2 日本道徳教育学会神奈川支部 田沼支部長挨拶
今年は、道徳教育にとって大きな1年であった。小学校、中学校で「特別の教科 道徳」が全面実施された。今回の改革は、5度目の大きな改革である。
1度目は、明治5年に公布された「学制」によって、修身科が教科に位置付けられ「修身口授(ぎょうぎのさとし)」として実施されたこと。
3 研究発表
提案内容「ねらいの設定と教材の関わり」
提案者 原 陽平 先生(寒川町立一之宮小学校)
寒川町立一之宮小学校では校内研究の主題を「豊かな心をもち、共に生きる力を育む道徳教育〜楽しんで考える子どもの姿を通して〜」と設定した。道徳科授業の課題として、①「ねらいに沿って考えを深め合う授業づくりの展開方法」、課題②「道徳的価値を理解させるための教科書の活用方法」を見出した。そこで、友達との交流の中で、自分の考えを深め、問題解決に向かって成長していく力をつけさせるために、パッケージ型ユニットを取り入れた授業計画の設定が有効であると考えた。
研究手法として以下6点を設定した。
(1)パッケージ型ユニットを取り入れた年間指導計画の作成と構造化
1年間を通した大単元、学期を通した中単元、数単位時間を組み合わせた小単元を設定した。
(2)「共通解」の獲得と「納得解」の紡ぎ
「共通解」を「多くの人が共有し合える望ましさ」とし、納得解を「共通解を受け止め、どうしようとしているか自覚化して考えたこと」と考えた。毎時間の授業で、道徳的価値について共通理解をもち、それを基に個々の考えをもつことを目指した。
(3)相談活動
ペア・グループワーク、ワールドカフェなどの相談活動の設定した、対話的な学びを通して自己内対話を促し、道徳的な学びを深める。表現するのが難しい児童の意見も反映され、主体的な学びに繋がった。
(4)構造的な板書
板書を児童の思考の場として捉え、視覚的にわかりやすくダイナミックに構造化した。
(5)道徳ノート
児童の学びの足跡を残すことや、見返すことで学びを見取ることができること、教師のコメントを入れて心の交流ができることをねらいとしてノート指導の充実を図った。
(6)学習課題や共通解を求める手法の具体
実体験や教材の事前読みの感想などから、児童の考えてみたい疑問を抽出し、それらを摺り合わせて学習テーマを設定した。児童の考えをまとめ上げるのではなく、意見の中から共通する言葉やキーワードを拾い上げ、つなぎ合わせて「みんなの考え」を提示した。
これらの手立てを講じた結果、「活発な意見交流ができる」、「意欲的に取り組み楽しみに感じる子の増加」、「ねらいと道徳的価値に迫る授業づくりの実践力」などの成果と、「子どもたちの心がもっとも揺れ動く授業の山場の設定」、「子どもの心がもっとも揺れ動く場面を見取る評価方法」などの課題が残った。
《質疑応答》
Q:研究主題の副題「楽しんで考える子どもたち」を引き出すための手立ては?
A:発問の投げかけ方を工夫した。自己表現が難しい児童が、ペア・グループワークで、一人一人の声が生かせるようにした。実践を積み重ねた結果、子ども達から「今日の道徳ではどんなことを考えるんだろう」という声が聞こえてきた。
Q:パフォーマンス評価を具体的にどのように行ったのか?
A:段階づけはせずに、子ども達がどのような行動をしていたかを見取った。話合いのときに挙手して発表していたことや、グループ活動における発言内容、役割演技で登場人物になりきって発表できていたことなどを見取っている。
Q:自己内対話や道徳的価値の理解を促す教師の手立ては?
A:相談活動の際に、まずは自分の意見を書かせ、その後、よいところを話し合わせる。グループ内で意見を発表させることで、自分の考えを表現できる児童を増やすことができる。また、授業のテーマを子ども達のノートの記述などを基に設定している。
Q:「言語的パフォーマンス」「非言語的パフォーマンス」は何を目的としているのか?
A:毎時間や小単元における評価の仕方は課題が残る。
4 シンポジウム
シンポジスト
鈴木 賢一 先生
(愛知県あま市立七宝小学校)
丸山 隆之 先生
(新潟県燕市立燕中学校)
馬場 尚子 先生
(相模原市立上鶴間中学校)
澤田 浩一 先生
(國學院大学)
コーディネーター 本田 正道 先生(神奈川支部副支部長)
・評価を通知表のためのものではなく、子ども自身が自己を見つめるためのものと考えている。発達段 階にふさわしい評価を研究している。低学年では、自分ができたという喜びが大きい。中学年では、分かっていてもできないことが出てくる。高学年や中学生では、弱さを自分で認められるようになる。
・子どもの実態を1番に考え、道徳科の指導を行なっていく。
・パッケージ型ユニットにおいて中心を貫くテーマに付随する内容項目の扱いを柔軟に考えていくとよい。内容項目にこだわりすぎずに、生徒が盛り上がった考えを大切にする。
・道徳教育は、問題場面に遭遇したときの意思決定力を育てるためにある。
《馬場先生より》
・道徳教育に関心をもつ母体が広がっている。
・本校では管理職も含めたローテーション道徳を行なっている。
・学校だより、道徳通信などを通して、道徳教育のねらいを発信し続けている。今後の社会のことを考慮すると子ども達の、自ら選択し生き方を考える力を高めていかなければならない。
《澤田先生より》
・「分かっていてもできない」はなぜ起こるのか。
認知から実践をつなぐものは想いである。
・道徳の時間を子どもとの関係づくりに生かせれ
ばよい。
・子ども達が評価文を読み「先生、私のことを見
てくれていた」と嬉しくなる文章を考えていって
欲しい。
・内容項目を柔軟に考える視点は重要であると思う。
・道徳授業でどのような力が身に付くのか?
(1)鈴木 賢一先生による小学校道徳科授業ミニ実践講座
① みんなで成長し合える学級づくり
「道徳の約束」を定めている。
・「友達」のために意見を言う
・「友達」の意見から学ぶ
・学んだことを「友達」に伝える
② 成長を実感できる授業と成長を後押しする評価
単元(ユニット)から「学びのつながり」を創り、「学びの積み重ね」から深い学びを生み出した。
《実践紹介》
4年生
「人の思いや気持ちを深く考えよう」
『わたしのいもうと』
『さち子のえがお』 第3時 D 生命の尊さ
『「愛する」という言葉以上の愛情表現』
《通知表や要録の基本的な評価文の作り方》
よさを見つけ、励まし、伸ばす「応援メッセージ」のつもりでかく。
(2)丸山 隆之 先生による中学校道徳科授業ミニ実践講座
《授業準備の提案》
① 目次順に教材を使う(1回読んでみる)
→ 内容項目(パッケージのテーマを確認)
② 発問を設定する(補助発問と中心発問)
③ 評価のための資料(データ)を確保する
教科書では→「私の気づき」と「学びの記録」
ポートフォリオ的に→「スタッキング・シート」
《日常の授業をうまく回すために》
「発問」なぜそう(した)なった 子供が理解できない言動(事象)の「なぜ」
〜発言(シェアリング)は、他者のシェマに作用する〜
「議論・切り返し発問・対話」 シェマの調節
「振り返り」 道徳性の深化の自覚 「最も印象に残った意見は、何ですか(なぜですか)」
「評価資料」を残しておく 「STACKING SHEET」
※「STACKING
SHEET」によって、評価の際に「大くくり」できる部分や、「光ことば」をさがすことができる。
6 閉会挨拶
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いつもながら内容の濃い、充実した研究大会でした。